<概要>
交換という行為によって、人類は経済的に豊かになった。
それは、分業による効率性の向上による物である。
「PCマウスを作る」などといった、
自分一人ではできない事を成し遂げられる社会が出来上がったのである。
(我々は作り方を知らない、電機会社の社長は経営方法しか知らない、生産ラインの人間はプラスチックの作り方を知らない、etc.)
交換経済によって作り上げられた「ネットワーク社会」の一つの部分として我々は存在している。
ネットワークを通じて様々なアイデアが融合する事で、
技術進歩が起こり、人類の生活水準も向上するのである。
<感想>
交換経済・分業経済によって人類が豊かになるというのは
Adam Smithの『諸国民の富』のメインテーマで、
(「神の見えざる手」の方が有名になってしまっていますが)
その点に関しては疑いの余地は無いと思う。
自分一人で、もしくは自分の周りの数人だけで成し遂げられる事の枠に収まらず、
何千・何万という人たちの仕事の成果物を利用できるという現代経済は、
とても便利だと思う。
僕の大好きな本で『君たちはどう生きるか』という本があるのですが、
主人公のコペル君は、「人間網の目の法則」
と呼んでいたっけ。
僕は、このブログはSONYのPCを使っている。
確かに、"MADE IN JAPAN"となっているが、
AC AdapterはMade in Chinaになってる。
この講演のビデオの内容のノートを取ったメモ帳は、
Rhodiaなのでフランス製。
万年筆はLAMYなので多分ドイツ製。
でも、その部品一つ一つを見れば、
PCのHDDのパーツはベトナム辺りで生産してるのだろうし、
Rhodiaの一部部品はスイス辺りで作ってるのかもしれないし、
世界中がネットワークになってる。
そのネットワークのお陰で、
この講演が聞けて、ブログが書けてる。
何て幸せな事だろう、と思う。
ただ、講演者はこのネットワークが、
そのままアイデアの世界でも使える事を仮定している。
本当にそうだろうか?
僕が良い起業のアイデアを持っていたとして、
諸々の資源の問題でそれを実現できずにいたとしよう。
交換経済のネットワークは、このアイデアを他のアイデアと結び付けて、
"Sex"が起こるような事態を引き起こしてくれるだろうか?
いや、きっとそうはならないだろう。
しかし、例えば、Web 2.0的な、
例えばOpen Sourceのようにウェブ上で技術者が共同開発ができるような環境があれば、
アイデアは掲示板で議論され、
技術は他の技術と融合し、
あっという間に、例の「ネットワーク」ができる。
つまり、自由交換経済とは別に、
アイデアが互いに触発されるような基盤が必要である。
ちなみに、アイデアは限界生産コストはゼロ(移転可能)だが、
自然独占的(アイデアの価値は最初の一回目しか無い)である上、
供給側と需要側での情報の不完全性がある(アイデアの価値は、知る前に分からない)ため、
なかなか取引を通じては起こらない。
つまり、自由交換経済において、個人の幸福追求は、アイデアの相互触発を抑制する原因にもなる。
さて、アイデアが互いに触発されるような環境とはどういう場だろうか?
もし、人々が利益を欲しがらずに、
アイデアを出していく楽しみだけを目的としているなら、
放っておいても、アイデアは相互触発される。
しかし、通常は利益欲しさに、アイデアはため込まれたままではないだろうか?
その場合、良いアイデアを提供する事が善とされ、
良いアイデアを提供した人に対して何らかの報酬を与えるシステムが必要である。
If not... 利益を欲しがる人々はアイデアを提供しないだろう。
現在のところ、これをSystematicに行う方法は見つかっておらず、
報酬を確定されるためには、誰が貢献者か分かるように、
ある程度小さな共同体が必要だと思われる。
世界中で一つの共同体となる、というのは無理そうだ。
とすると、共通の利益を追求する団体があって、
その中で利益を再配分する、信頼できる機構が必要そうになる。
もしかしたら、企業みたいな共同体が必要なのって、これが理由?
なんて、聞きながら考えた。
ノーベル経済学者のRonald Coaseは
その著書"The Nature of the Firm"において、
企業の存在意義は取引コストの節約
などと挙げられている。
このCoaseの考え方は古くて、
ケイパビリティの構築が企業の本質、
と説いていました。
でも、別の見方として、
良いアイデアへの報償を約束し、
アイデアの"Sex"(相互触発)を起こす共同体、
という考え方もありそうである。
もしそうだといすると、
現代の日本企業って最悪だな~。
青色発光ダイオードが良い例だけど、
素晴らしいアイデアを発明した人に、
報酬を与えないんだもん。
近々、アイデア勝負の時代が来るのではないか、と思いながら、
アイデアを相互触発する共同体の必要性を感じつつ、
この講演を聞いてました。
<参考文献>