2010年8月11日水曜日

功利主義/自由至上主義

最近、哲学に興味を持ちだして、

流行りのMichael Sandelの講義をまとめた本を読んでます。

英語版は、ドイツで仕入れるとして、

とりあえず概念だけ理解するために日本語版で。

知らない方のために説明しておくと、


NHKでも報道されました。


その中で市場と倫理に関しての章があったので、

ちょっと取り上げてみたいと思います。

本をお持ちの方は、第四章の部分ですね。

講義をご覧になった方は、Episode 5 です。

Youtube版もあるので、貼り付けます。




さて、この章のメインテーマは、(英語版の要旨はSandel自身の物があります)

市場で取引して良い物とダメな物の違いは何だろう?

という事だ。

例えば、傭兵性、または徴兵性において代理人を調達すれば徴兵が免除されるケースと、

代理母出産に報酬を与えるケースが取り上げられていて、

どちらも、「兵力」「出産能力」といった物を市場で取引して良いのか?

という議論になっている。


経済学的には、YESに決まっている(第三者への悪影響があるなら別だが)。

確かに、経済学を学び始めた時にこんな問いは頭に浮かんだんだけど、

学問を学んでいくと不思議で、

いつの間にか疑問が消えてしまっていて、

功利主義的な考え方、市場では原則としての自由至上主義的な考え方に

いつの間にか染まってしまっている。

怖いな~って改めて思う。


さて、一番面白かったのは、

市場取引は事実上の奴隷制になっていないか?

という議論。

例えば、

イラクでアメリカのために戦っている人々の圧倒的多数は、都市部のスラム街や地方の貧しい地域の出身だ。こういった地域では、最高四万ドルという入隊一時金や教育を受ける際の数々の得点はきわめて魅力が大きい。大学に入る選択肢を持っている人間にとって、こうしたインセンティブは―自分の命を危険にさらすことになるのであれば―あまり意味がない。

というような事実からうかがえる。

社会階級的に選択肢が少ない人間が、

高額報酬を求めて、兵士になる。といったお話である。


僕がこれまで、約4年間かけて学んできた経済学は、

希少な資源の配分を扱う学問で、

この問題は、まさに労働という希少資源をどう配分すべきか、という問題なのに、

経済学はこの問いに対する答えを教えてくれない。

全く役立たない。

そう思った瞬間、気の抜けた笑いが出てしまった。


しいて言うなら、

市場が決定しているこの諸労働条件に対して、

一番応募したい人が応募してきていて、

そこまで応募したくない人は応募していない。

一番この報酬に魅力を感じる人がこの職にありつける。

その貧困層の人間がいたとして、

少なくとも兵隊に応募しなかった場合と比べれば、

彼の効用は上がってる。

また、軍隊も最低限のコストで労働力を調達できている。

素晴らしいマッチングではないか。

といった議論にでもなるのだろうか?

ちょっと寂しい。


僕が、自分の中に感じている、現状に対する違和感は何なんだろう?

少なくとも、経済学はそれを説明してくれない。

これを、論理的に説明できる言葉を、

近いうちに身につけたいな、と思う。


次、代理母出産の話。

ここで興味深かったのは、

女性の妊娠力を商品として売って良いのかというお話。

本の中には、エリザベス・アンダーソンという道徳哲学者が紹介されていて、

品物や社会的な営みを評価するには正しい方法でも、そのまま人間に当てはまるわけではない

という考え方が紹介されている。

果たしてそうだろうか?


このポイントに関しては、女性の性機能を売る事に問題は無いだろう。

というのが僕の読んだ時の意見。

男性側で考えれば精子バンクは存在するし、

もっと軽度な物で考えれば、女性アイドルだって、

市場で女性が評価されている状況と等しいと思う。


これらと代理母出産を明確に区別し、

代理母出産をNGとする考え方があるなら、

是非聞きたい物です。


この功利主義に毒された心に、

道徳観が戻りますように。


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これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学マイケル・サンデル Michael J. Sandel 鬼澤 忍

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