円高の対応策について以下の3つについて書いています。
1. インフレターゲットの導入による、実質金利の引き下げ
2. 長期国債の買い切りオペなど、日銀による、より実効性ある金融緩和策の実施
3. 財務省による為替介入の実施
3.について実現されてハッピー!という記事があったので、
この3つについて反論したいと思います。
さて、1のインフレターゲットについて。
インフレターゲットというのは、
日銀が「物価の上昇率(インフレ率)が何%になるように政策判断しますよ」
と宣言する事。
日銀が高いインフレ率を設定すれば、
市場が「物価が上がるはずだ!」と思い、
貯蓄してた人たちが物を買うようになって、
経済が活性化する、という考え方です。
まず、日銀には暗黙に設定された目標インフレ率があります。
テイラールールという経済学の考え方を用いると、簡単に測定できます。
だから、インフレターゲットを明文化するかどうか、
という話は焦点になりえない。
そして、人々が本当に「物価が上がる」と思うんですかね?
今の時代、デフレか物価一定が10年以上続いてきた中で、
「インフレ○%を目標にします」なんて宣言しても、人々は信じるのでしょうか?
そもそも経済学の考え方では、
日銀は単独では物価をコントロールできず、
若干の影響を与える事だけができる、という事になっています。
お金を刷ればインフレになると思っている方も多いと思いますが、
日本銀行はお金を刷りまくって、市場に供給しているのに、
見返りが期待できる投資先が無いためにお金が上手く回らず、
お金が銀行の手元に余っていて、インフレにならずにいる現状があります。
なので、単純にお金を供給すればインフレになる、という、
古典的経済学の発想は通用しなくなっています。
そして、インフレターゲットを達成できなかった時に、
「日銀の言ってる事ってウソじゃん」
「日銀って政策運営できてないんじゃね?」
と信用を失うリスクが高すぎます。
日銀で何か政策決定されると(例:金利の引き上げ)、
それは信用性のある物としてすぐ市場価格に反映されます(例:国債の価格が下がる)。
そのお陰で、日銀は日本経済に影響を与えられる存在になっています。
でも、その信用を失うと、経済運営がうまくできなくなります。
このリスクは、なかなか取れないですよね。
という訳で、インフレターゲット論は怖い怖い誤りなのです。
2.の金融緩和策については、上の通りです。
金融緩和とは、市場にお金を供給する事です。
通常の状態では、お金を供給する事で経済を活性化できますが、
現在のようなカネ余りの状態では、お金の供給は全く意味がありません。
これは、古典的経済学しか知らない人が犯す、典型的な間違いなのです。
専門用語では、この状態の事を「流動性の罠」といいます。
最後に、3.為替介入について。
これは、当たり前なのですが…
気休め程度の効果しかありません。
一日に東京市場で取引される為替総額は1470億円です。
一年だとその365倍!
とてつもない量のお金が動いています。
財務省が介入できるのはほんの僅かな量で、
マーケットの趨勢(流れ)を変える事はできません。
「円高は嫌ですよ!」と政府のメッセージを伝える、
シグナリングの効果しかありません。
日米欧で共同で介入して、
主要国トップのメッセージとして伝えるなら影響力があるかもしれませんが、
日本単独で介入して、どれほどの効果があるでしょうか?
無いとは言いませんが、無視できる程度しか無いと思われます。
という訳で、円高の対応策について、
あまりにも経済学的に間違った事が書かれていたので、
ちょっとだけ訂正してみました。
ちなみに、勝間さんがどうこうではなくて、
世の中には誤った経済学が溢れています。
日経ビジネスの経済解説なんか、正しい物を見つける方が大変だし…。
エコノミストなんかに騙されず、
経済を見る正しい目を身につけたい物です。